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退職代行と非弁行為の危険性

  • 執筆者の写真: わたらせ法律事務所
    わたらせ法律事務所
  • 6月16日
  • 読了時間: 4分

春先になると、毎年のように「退職代行」に関する話題がニュースやSNSで取り上げられます。とりわけ4月から5月にかけては、新卒で就職したばかりの若者が、わずか数週間で退職を決断するケースもあり、「退職代行を使って会社に出社せずに辞めた」というエピソードが注目を集めます。その背景には、新社会人と職場との間にあるミスマッチや、相談できる相手がいない孤立感、過重な労働や人間関係のストレスがあると考えられます。


群馬県桐生市・みどり市周辺においても、若年層の就労をめぐる悩みは決して他人事ではありません。退職代行サービスの利用を検討している方や、逆に経営者としてこのような退職に直面したことのある方も多いのではないでしょうか。しかし、退職代行には一見便利に見える側面とともに、法的リスクが潜んでいる点にも注意が必要です。今回は、退職代行と非弁行為との関係に焦点を当て、法律の観点から分かりやすく解説します。



退職代行とは何か


退職代行とは、依頼者に代わって勤務先に退職の意思を伝えるサービスのことを指します。「自分で辞めると言い出せない」「会社と連絡を取りたくない」「強く引き止められるのが怖い」といった理由から、第三者に連絡を委ねたいというニーズがあるのです。


これらの代行業者の多くはインターネットで簡単に依頼でき、LINEやメールなどを通じて即日で対応することもあります。一部の業者は「弁護士が対応」「法的サポート付き」などと謳い、安心感を前面に押し出しています。


ただし、ここで問題となるのが「誰が」代行するのかという点です。というのも、退職という行為そのものは私的な手続きに見えても、法的には雇用契約という契約関係を終了させる手続きであり、場合によっては労働条件や未払い賃金、損害賠償などの交渉が関係してくるため、慎重な判断が求められます。



非弁行為のリスクとは


「非弁行為」という言葉をご存じでしょうか。これは、「弁護士でない者が、報酬を得る目的で法律事務を取り扱うこと」を意味します。弁護士法第72条によって明確に禁止されており、違反すれば刑事罰が科されるおそれもあります。


たとえば、弁護士資格を持たない退職代行業者が、会社と「有給休暇の消化」「退職金の支払い」などについて交渉した場合、それは法律事務に該当し、非弁行為と判断される可能性があります。単に「退職の意思を伝える」という伝言役にとどまるのであれば、非弁行為に当たらないという考え方もありますが、現実にはその線引きが非常に曖昧で、トラブルの火種になりやすいのです。


また、依頼者本人が気づかぬうちに、非弁行為に加担することになってしまう可能性も否定できません。たとえば、違法な非弁業者を利用して会社と退職交渉を進めた結果、後になって「退職の効力に争いがある」と指摘されたり、損害賠償を請求されたりする事例もあります。



退職の意思表示は慎重に行うべき


退職は、基本的には民法627条に基づいて「2週間前に退職の意思表示をすれば自由に辞められる」とされています。しかし、それはあくまで法的な建前であり、現実の職場では引き継ぎの問題や就業規則による制限、さらには感情的なもつれなどが複雑に絡んできます。


そうした事情を踏まえると、「伝えるのが面倒だから」「会社に行きたくないから」という理由だけで代行業者に全てを任せるのは、後々のトラブルを招くことになりかねません。特に、残業代の未払いがある場合や、労働条件に不満がある場合には、法的な助言を踏まえて行動することが重要です。


退職は一つの権利であると同時に、労使双方の関係を円満に解消するための重要な手続きでもあります。感情的に一方的な通告をして終わり、というものではありません。



弁護士に相談する意義と安心感


このような場面において、弁護士に相談する意義は非常に大きいといえます。弁護士は、退職に関する法律的な知識だけでなく、労使交渉やトラブル解決の経験を豊富に有しています。退職を伝えるタイミングや方法、交渉の進め方などについて、依頼者の立場に立ってアドバイスを行い、必要に応じて会社側との交渉も適法に代行できます。


桐生市・みどり市周辺の地域でも、当事務所では若年層の退職相談を数多く受けており、「会社を辞めたいけれど、どうしても言い出せない」という方や、「未払いの給与があるが、何も言えずに辞めてしまった」というご相談にも対応してまいりました。


退職は人生の転機となる重大な選択です。だからこそ、非弁リスクを回避し、法的にも感情的にも納得できる形で新たな一歩を踏み出すために、法律の専門家のサポートを活用していただきたいと考えております。


〔弁護士 馬場大祐〕


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