top of page

法律コラム

current column in the law

―桐生市・みどり市周辺における離婚相談の現場から―



離婚後共同親権とその周辺制度の整備


令和6年5月、離婚後の「共同親権」導入を柱とする家族法改正が成立し、今後2年以内の施行が見込まれています。これまで日本では、父母が離婚をすると必ずどちらか一方に親権を定めなければならず、親権争いが激化する原因となっていました。これに対し、新たな制度では、家庭裁判所の判断を経て、離婚後も父母が共に親権者となる「共同親権」を選択できる道が開かれることになります。


もっとも、制度上の導入は「共同」が理想であると一律に定めるものではありません。DVや虐待が疑われる事案、意思疎通が極端に困難な夫婦関係など、共同親権が子の利益に反すると判断される場合には、引き続き単独親権が妥当とされる余地が残されています。


桐生市に拠点を置く当事務所でも、近年は離婚後の子育てをめぐる相談が増加しており、共同親権が現実にどう活用されるか、地域事情を踏まえた慎重な対応が求められるところです。法的な選択肢が広がる一方で、親としての協力関係が築けるかどうかを丁寧に見極める必要があります。



面会交流制度の条文化と「ニュートラル・フラットモデル」への転換


本改正では、面会交流(親子交流)に関する制度が民法上に明文で整備されました。新設された民法817条の13および766条の2では、父母が離婚後に子と別居する親、さらには祖父母等との交流に関する取り決めを行う方法や、家裁による判断の枠組みが定められています。


これまでは、家裁実務の中で扱われていた面会交流が、一定の法的根拠をもって明文化された点に意義があります。ただし、この改正は「面会交流の原則実施」を義務づけるものではありません。むしろ、現在の家庭裁判所実務は、「ニュートラル・フラットモデル」と呼ばれる姿勢に立ち、子の利益を最優先として、個々の事情に応じた柔軟な判断を行うことを基本としています。


特に、DVや虐待の疑いがある場合、あるいは子どもが強く拒絶している場合には、面会交流が認められないこともあります。また、心理学的知見においても、必ずしもすべての面会交流が子どもの安定や発達にとって有益であるという一元的な結論が得られているわけではなく、交流の質と形に焦点を当てる必要性が高まっています。


新設された条文の中で注目すべきは、非監護親以外の者、すなわち祖父母や兄弟姉妹などが、特に必要がある場合に限り、家裁に申立てて面会交流を実施できる余地が認められた点です。これは、これまで最高裁が明示的に否定していた祖父母の面会交流請求権に対して、立法的に一部の例外を認めたものであり、地域社会における家族の多様な形を反映したものといえます。


もっとも、こうした交流は「特に必要がある」と家裁が認める場合に限られるため、無条件に広く認められるものではありません。交流の頻度や態様が子どもにとって心理的負担となる可能性もあることから、家族間のバランスや監護親の意思との調和も重視されます。



家裁手続における「試行的実施」の新制度と実効性


今回の改正では、面会交流に関連する実務運用の一環として、「試行的実施」の制度が家事事件手続法152条の3に新設されました。これは、家庭裁判所が当事者に対し、子どもとの交流を試験的に行うよう「促す」ことができる制度です。法的強制力を伴うものではなく、あくまで自発的な協力を促す仕組みにとどまります。


「試行的実施」は、家裁調査官が交流場面を観察し、子どもや当事者の様子を記録することで、実際の交流の可能性や影響を事実として確認するための手段として用いられます。これにより、交流の可否や条件をより現実に即した形で判断することが可能となります。


ただし、地方裁判所においては、家裁調査官の人員や設備の問題から、制度の運用に限界があるとの指摘もあります。このような現実を踏まえると、「試行的実施」の実効性を確保するためには、人的資源の拡充や施設整備といった制度外の支援も必要となってくるでしょう。法的根拠が整ったとはいえ、運用面での課題が今後の議論の中心となるものと見込まれます。



地域の現場から見える「制度」と「生活」の乖離


私たちが日々相談を受けている桐生市やみどり市周辺のご家庭では、離婚に伴う養育の問題が複雑に絡み合っています。離婚届の提出一つを取っても、背景には親権者指定、監護の分担、教育・医療方針の協議など、慎重な判断を要する事柄が山積しています。法律改正によって選択肢が増えたことで、より丁寧な説明やアドバイスが求められるようになりました。


また、法制度が変わったからといって、地域社会における実情がすぐに変化するわけではありません。特に、親族との関係性や家制度的な価値観が色濃く残る東毛地域においては、祖父母による介入や親権をめぐる意見の対立が、かえって新たな紛争を招く可能性もあるのです。


離婚後の生活は、制度によってすべてが整えられるわけではなく、一つ一つの選択と合意の積み重ねによって成り立ちます。新たな法律を正しく理解し、自分たちの家庭にとって何が最善かを見極めるためには、地域の事情や生活背景に寄り添える法律家の関与が今まで以上に重要になるでしょう。



おわりに


令和6年の家族法改正は、法制度の整備という観点からは大きな一歩です。しかし、その実効性は、法改正の「趣旨」をいかに現場で実現していくかにかかっています。共同親権、面会交流、試行的実施といった新しい枠組みも、それぞれに運用上の難しさを抱えており、専門家の支援なしには判断が難しい局面も多々あります。


桐生市・みどり市周辺で離婚や親子関係に悩む方々にとって、法改正は「何かが変わる」のではなく、「今まで相談しにくかったことに光が当たり始めた」と受け止めていただくのがよいかもしれません。地域に根ざした法律事務所として、制度と生活の橋渡しをする役割を果たすべく、これからも丁寧な支援を続けてまいります。


なお、本稿で取り上げたのは、今回の改正の中でも一部の論点にすぎません。令和6年改正は、離婚分野に限っても、親権・監護・面会交流制度に限らず、養育費、財産分与、扶養義務など家族法全般にわたる大規模な見直しを含んでいます。今後も当事務所では、地域の皆さまにとって身近で有益な情報をお届けするため、折に触れて改正法の解説コラムを発出していく予定です。引き続き、ぜひご注目ください。


〔弁護士 馬場大祐〕



現代社会において、住環境の悪化を訴える声は少なくありません。特に、住宅地や市街地で新たな建築物が建設される際には、周辺住民との間でトラブルが生じやすくなります。その代表的なものが「日照被害」や「騒音被害」といった生活環境への影響です。当事務所でも、住宅地に突然高層マンションが建ち、隣家の日当たりが失われたといった事例や、工場・店舗の改築により深夜まで機械音や話し声が聞こえるようになったという相談が寄せられています。では、このような被害に対して、法的にどのような手段がとれるのでしょうか。本稿では、民法上の請求可能性を中心に、実務的な視点も交えて解説いたします。 



日照・騒音被害と「受忍限度」 


まず前提として、私たちが社会の中で生活していく以上、他人の行為によるある程度の不快感や不利益は避けられないものとされています。民法はこの点に関して、隣接する土地の使用に伴う一定の不利益を「受忍すべき限度」と捉え、その限度を超えたときには初めて違法と評価します。この「受忍限度論」は、日照や騒音に関する紛争でも重要なキーワードとなります。


例えば、ある家の隣に高さ10メートルを超える建物が建設されたことで、冬場の日当たりが大幅に減少し、暖房費が著しく増えたという場合、被害の程度・建物の規模や距離・周辺の環境などを総合的に考慮して、受忍限度を超えているかどうかが判断されます。


騒音についても同様で、たとえば道路に面した店舗が、夜間も含めてスピーカーで呼び込みを行うような場合、周囲が静かな住宅地であればその騒音が受忍限度を超えると評価される可能性が高まります。逆に、都市の繁華街であれば、多少の音は許容されると判断されることもあります。つまり、「受忍限度」は地域の性質や被害者の生活実態によって左右される相対的なものなのです。



民法上の救済手段と損害賠償の可否


それでは、受忍限度を超える日照・騒音被害が認められた場合、どのような法的手段が取り得るのでしょうか。主に考えられるのは、①損害賠償請求、②仮処分による差止請求です。以下、それぞれの救済可能性についてご説明します。


まず、損害賠償請求(民法709条)については、不法行為としての要件を満たす必要があります。具体的には、加害者に故意・過失があること、受忍限度を超える被害の発生、そしてそれによる損害(財産的または精神的損害)が認められることが必要です。


実際には、住宅地域では日照被害について損害賠償が認められた裁判例が存在します。一方、商業地域や工業地域では、たとえ同様の被害があっても、損害賠償が否定されることも少なくありません。認められる金額としては、日照の損失1時間あたり15万円から20万円前後と認定されることもあり、必ずしも高額とは言えない水準にとどまっています。ただし、裁判上の和解や交渉の中では、一定の交渉余地は存在します。


次に、差止請求については、建築工事が今後も継続し、日照被害が甚大かつ回復困難な損害をもたらすと見込まれる場合、民事保全法に基づく仮処分によって工事の全部または一部を差し止めるという選択肢が生じます。しかし、現実には建築基準法を遵守している工事に対して、仮処分をもって差し止めが認められるケースは非常に限られているのが現状です。もっとも、仮処分を申し立てたこと自体が交渉材料となり、建築側との和解によって設計変更や施工方法の調整がなされた例も複数存在しており、完全に無力な手段ではありません。


このように、損害賠償も差止請求も、法的に一定のハードルを伴いますが、被害の状況や地域性、証拠の整備状況によっては実効的な救済が図れる場合もあります。したがって、どの手段をとるべきか、またそのためにどのような準備が必要かは、早期に専門家と相談のうえ見極めることが重要です。



早期の専門家相談の重要性


昔ながらの木造住宅が密集するエリアに、新築の分譲マンションや大型店舗が進出する事例が年々増加しています。そのような開発に伴って、「日差しが全く入らなくなった」「子どもが勉強中に騒音で集中できない」といった声が聞かれるのも事実です。


しかしながら、現実には「どうせ勝てないだろう」「相手が大手の建設会社だから」といった思い込みから、泣き寝入りしてしまう方も少なくありません。法律の知識がないままに感情的なやり取りを続けてしまうと、かえって事態が悪化することもあります。


こうしたトラブルを法的に解決するには、専門的な見地からのアドバイスが欠かせません。たとえば、測量士や環境測定の専門家による被害実態の記録、近隣の住民からの協力的な証言、設計図面の検討など、証拠の収集が早期解決の鍵を握ります。弁護士がこれらのプロセスを総合的にマネジメントすることで、交渉による円満な解決が可能になることも少なくありません。


また、裁判にまで発展することが見込まれる場合でも、事前に裁判所の判断基準や類似の判例に照らして、勝算の見込みを明確にすることで、無理な主張や徒労を避けることができます。



まとめに代えて


建築による日照や騒音の被害は、「生活の質」に直結する問題でありながら、証明の難しさや心理的なハードルから、放置されがちな分野です。しかし、民法は私たちの生活権を守るための柔軟な武器を備えており、適切に用いることで、泣き寝入りせずに済む道も存在します。


もし、現在進行形でお困りの方がいらっしゃれば、まずは事実関係を丁寧に整理し、早めに弁護士に相談されることをおすすめいたします。地域に根ざした事務所として、当事務所では、東毛地区の生活環境と慣習に即したご提案を心がけておりますので、お気軽にご相談ください。


〔弁護士 馬場大祐〕

~桐生市・みどり市の皆様へ、地域に根差した法律支援の観点から~



突然の逮捕、そのとき家族にできること


ある日、家族が薬物事件で逮捕されたという知らせを受ける――これは、誰にとっても現実とは思えない衝撃的な出来事です。しかし、その現実と直面したときこそ、冷静で的確な初動対応が求められます。


薬物事件における逮捕は、多くの場合、突然です。捜査機関が一定の証拠を収集し、所持や使用の事実があったと判断した場合、逮捕令状をもとに身柄を拘束します。家族に連絡が来るのは、その後です。


まず、逮捕直後は、被疑者本人と直接連絡を取ることはできません。留置施設に収容され、警察署で取調べが続く中、外部との接触が制限される「接見禁止措置」がとられている可能性もあります。こうした状況においては、弁護士への早期相談が非常に重要です。弁護士であれば、接見禁止中でも原則として本人と面会(接見)することができます。


当事務所でも「突然の逮捕にどう対処すればよいか分からない」といったご相談は多く寄せられます。地域の実情に精通した弁護士に早期に依頼することで、適切な法的対応と精神的な支えを得ることが可能になります。

弁護士は、勾留の回避や保釈請求を行うだけでなく、家族の不安や誤解を取り除き、本人の状況や見通しについて的確に説明します。これは、被疑者にとっても、社会とのつながりを絶やさずにいられる重要なステップです。



再犯のリスクとその現実


薬物事件において特に社会的な問題となるのが、再犯の高さです。中でも覚せい剤取締法違反に関しては、他の刑法犯と比べても際立った再犯者率が長年にわたって指摘されています。


法務省の犯罪白書(平成13年版)によれば、覚せい剤取締法違反により送致された者の再犯者率は、強盗や傷害、窃盗といった他の主要な刑法犯と比べて常に最も高く、昭和60年以降は2番目に高い傷害罪の再犯率をおよそ20ポイント以上も上回る水準で推移しています。とりわけ、暴力団に所属する者においては再犯者率が60%台で推移しており、それ以外の一般人でも、平成7年以降は40%前後の再犯者率が続いています。


さらに、覚せい剤事犯で受刑した人のうち、複数回刑務所に収容された経験を持つ者の割合は極めて高く、初犯での入所者よりも「2回目以上の入所者」が多数を占めている状況です。また、執行猶予の歴がある者の比率も他の犯罪と比べて顕著に高く、覚せい剤事犯では70~80%の者が執行猶予の経験を有していたという統計も示されています。つまり、一度逮捕され、処分を受けたとしても、それで薬物から抜け出せるわけではなく、多くの人が再び同じ行為に戻ってしまっているのです。


このことからも明らかなように、薬物事犯は「処罰を受けたか否か」ではなく、「根本的な依存症や環境にどう対応するか」が再犯防止のカギを握っています。再犯の背景には、薬物への身体的・精神的依存、交友関係、生活環境の不安定さなど、複合的な要因が絡み合っています。したがって、刑罰による矯正だけではなく、医療的なケアや社会的なサポートが不可欠なのです。



再犯防止のために家族ができること


再犯防止の鍵は、本人の意志だけではなく、周囲の環境やサポート体制にあります。家族の理解と協力があってこそ、薬物依存からの回復は現実のものとなります。


まず、薬物依存症は「意志の弱さ」ではなく「病気」であるという理解が不可欠です。この病気には、治療と支援が必要です。たとえば、群馬県内にも薬物依存の専門治療を提供する精神科クリニックや、更生保護施設、支援団体(ダルクなど)が存在します。こうした施設と連携しながら、医療的アプローチと社会的サポートを組み合わせることで、再発を防ぐ手立てが整います。


また、家族が主導して規則正しい生活リズムや安定した居場所を提供することも大きな意義があります。再犯の多くは、孤立や無職状態により社会との接点が失われたときに起こります。桐生市・みどり市周辺でも、就労支援を行う福祉機関とつながりを持ち、本人が地域社会の中で役割を持つことが重要です。


さらに、弁護士としての立場から言えば、再犯の芽を摘むためには、裁判や取調べの段階で既に「回復への第一歩」を踏み出しているという姿勢を見せることが、処分の軽減にも繋がる場合があります。たとえば、裁判の前に自主的に医療機関を受診し、治療を開始していることを示すことは、裁判所の判断にも良い影響を与えることがあります。



終わりに


家族が薬物事件で逮捕されたとき、「どうしてこんなことに」「もう信用できない」と感じるのは、自然なことです。しかし、その先に目を向けたとき、家族としてできることは確かに存在します。早期の法的支援、的確な医療的介入、そして何よりも温かくも毅然とした姿勢で向き合うことが、本人の社会復帰と再犯防止の鍵を握っています。

弁護士法人わたらせ法律事務所では、桐生市・みどり市を中心に、こうした薬物事件に関するご相談を多数お受けしています。突然の事態に戸惑われたときには、ひとりで悩まず、どうか専門家へご相談ください。地域の皆さまと共に、再出発の一歩を支えることが、私たちの使命です。


〔弁護士 馬場大祐〕


Copyright ©弁護士法人わたらせ法律事務所 All Rights Reserved.

bottom of page