【一般民事】賃料不払に基づく建物明渡請求の実務的留意点
- わたらせ法律事務所
- 5月14日
- 読了時間: 4分
はじめに〜地域の課題と法的対応の必要性
アパートやテナントの賃貸借契約にまつわるトラブルは後を絶ちません。特に多いのが、借主による賃料不払いに関するご相談です。賃貸人(貸主)としては、家賃の支払いが滞った状態を放置してしまうと、建物の維持管理やローン返済に支障をきたすばかりか、今後の契約関係にも悪影響を及ぼします。かといって、法律上の手続を踏まずに無理やり明渡しを迫るような行為(例:鍵の交換や荷物の撤去など)は、かえって違法行為となり、損害賠償の対象にもなりかねません。
本稿では、賃料不払を理由として建物明渡を求める際に、賃貸人が押さえておくべき実務上のポイントについて、当事務所で過去に取り扱った経験等を踏まえつつ、分かりやすく解説いたします。
「賃料不払」だけではすぐに明渡しを求められないという現実
よくある誤解のひとつに、「1か月でも家賃が遅れたらすぐに出て行ってもらえる」というものがあります。しかし、実際には賃料不払いがただちに契約解除や明渡しの理由になるわけではありません。法律上、明渡しを正当に求めるには、「信頼関係の破壊」と呼ばれる、契約関係を維持できない程度の背信的事情が必要とされているのです。
裁判例では、おおむね2か月から3か月以上の連続した未払いがあり、かつ借主からの誠実な支払いの意思が見られない場合に初めて「信頼関係が破綻した」として契約解除が認められる傾向があるようです。ただし、これはあくまで一つの目安にすぎず、未払いの期間や金額、支払催促への対応、これまでの支払実績など、総合的な事情を見て判断されることになります。
地元の人間関係や小規模な貸主・借主関係が背景にあるケースでは、借主側に一定の猶予を与えるよう裁判所が指導する場面も少なくありません。したがって、感情的になって即座に法的手続をとる前に、状況の把握と証拠収集を慎重に行う必要があります。
内容証明による催告と契約解除の重要性
契約を解除するには、まずは「催告」と呼ばれる手続を踏むのが一般的です。これは、借主に対して「いつまでに未払い分を支払ってください」と正式に通知することで、履行の機会を与えるものです。もっとも、単なる口頭での督促では証拠能力が乏しく、後に裁判で争われた場合に「催告を受けていない」と主張されるおそれがあります。
そのため、実務では内容証明郵便などの書面で催告を行うことが基本となります。通知書には、支払期限や未払い額、支払わなければ契約を解除する旨を明記します。支払期限を過ぎても借主が賃料を納めなかった場合、あらためて「契約を解除する」と明示する書面を送ることで、契約関係が終了し、建物明渡を求める法的根拠が整います。
なお、催告を経ずにいきなり契約解除を通知することは、原則として無効とされるリスクがあります。ただし、過去にも繰り返し未払いをしており、支払意思も見られないような事情があれば、催告なしでも有効な解除とされることもあります。このような判断には専門的な知見が必要となるため、法律の専門家に相談することをおすすめします。
明渡請求訴訟と強制執行の流れ
内容証明での催告と解除を経ても借主が任意に退去しない場合、次の段階として裁判所に建物明渡請求訴訟を提起する必要があります。訴訟では、契約書や内容証明の控え、未払賃料の経過を示す帳簿類などが証拠となり、契約解除が有効であること、未払いが続いていること、借主が明渡しに応じていないことを主張立証します。
判決後、借主が自発的に退去しない場合には、強制執行手続へと進みます。これは裁判所の執行官が現地に出向き、実力で建物を明け渡させる手続であり、法律に基づいた最終的な措置です。
ただし、実際には判決を受けた段階で多くの借主が自主的に退去することが多いのも現実です。逆にいえば、訴訟手続に入る前段階で、弁護士からの通知書や提訴準備の連絡を受けて、ようやく現実を認識する借主も少なくありません。したがって、専門家による早めの介入が解決への近道となる場合もあります。
おわりに〜早期相談と地域密着のサポート体制
賃料不払いを放置してしまうと、未収額が増えるばかりか、建物の価値や管理にも悪影響を及ぼす可能性があります。また、借主との関係が悪化すると、地域コミュニティにおける信頼関係にもヒビが入ることがあります。特に、桐生市や太田市など、地域のつながりが深い東毛地区においては、法的手続をとるタイミングや進め方にも慎重さが求められます。
当事務所では、こうした地域特有の事情に配慮しつつ、依頼者様のご意向を丁寧に伺いながら、最適な解決手段をご提案しています。早い段階でのご相談により、裁判を避けた円満な解決が可能となるケースも多くあります。建物の明渡しや賃料回収でお悩みの際には、どうかお一人で抱え込まず、お気軽にご相談ください。
〔弁護士 馬場大祐〕