【相続・遺言】地域密着型法律事務所から見た配偶者居住権制度と相続実務の変化
- わたらせ法律事務所

- 7月15日
- 読了時間: 4分
―桐生市・みどり市周辺における新たな選択肢として―
少子高齢化の進行に伴い、相続に関するご相談がますます増えている桐生市・みどり市周辺地域において、令和2年4月1日から施行された「配偶者居住権」「配偶者短期居住権」に関する新制度は、相続実務に大きな影響を与えるものとなりました。従来、相続に際しては「自宅を配偶者が引き継ぐか、それとも売却するか」といった二者択一に迫られる場面も多く、老後の安心を確保する上で十分な選択肢が用意されているとは言いがたい状況でした。しかし、新制度の導入によって、配偶者が住み慣れた家に留まりながら、他の資産(預貯金等)をも確保できる可能性が広がり、相続設計の幅が大きく広がることとなりました。
本稿では、地域に根ざす法律事務所としての視点から、この新たな制度の概要と実務上の変化、そして地域の皆さまにとっての意義についてご紹介いたします。
配偶者居住権と配偶者短期居住権の制度趣旨
配偶者居住権とは、被相続人の死亡時に自宅に住んでいた配偶者が、賃料を支払うことなくそのまま住み続けることができる権利です。この権利は、被相続人が生前に遺言で定めるか、または相続人間の遺産分割協議によって設定することが可能です。従来の制度下では、配偶者が自宅を相続するためには、しばしば土地建物そのものを「所有権」として取得する必要があり、結果として他の財産を取得できず、老後の資金不足を招くリスクがありました。これに対して、配偶者居住権は「居住権」と「所有権」を分離することで、配偶者の住まいの安定を確保しつつ、現金等の流動資産をより多く取得できる仕組みとなっています。
また、仮に配偶者居住権が設定されなかった場合でも、配偶者短期居住権により、最低6か月間は無償で住み続けることが認められています。急な立ち退きを迫られる不安が軽減され、配偶者が次の生活設計を立てるための猶予期間を確保できる点も重要な意義を持ちます。
相続実務における配偶者居住権の活用場面
桐生市・みどり市周辺地域では、築年数の経った住宅に配偶者と同居しているご家庭が多く見受けられます。こうした地域特有の事情において、配偶者居住権の活用は非常に実務的な意味を持つようになりました。
たとえば、被相続人が預貯金よりも不動産資産を多く保有しているケースでは、遺産分割にあたり、「配偶者が家を失うか、あるいは他の相続人に金銭を支払って家を取得するか」といった選択を迫られがちでした。配偶者居住権を設定することで、所有権は他の相続人に帰属させつつ、配偶者は無償で自宅に住み続けることができ、かつ、配偶者自身も預貯金などの他の財産を受け取ることが可能になります。
これにより、高齢の配偶者が住み慣れた地域コミュニティを離れることなく、生活資金の不安も軽減される結果となり、家族間のトラブル防止にも資する制度設計となっています。当事務所においても、今後は相続設計のご提案に際し、配偶者居住権の設定を積極的に選択肢として検討していく方針です。
制度利用にあたっての留意点と地域密着型支援の重要性
もっとも、配偶者居住権には一定の注意点も存在します。たとえば、配偶者居住権は譲渡することができず、また、賃貸などの活用も所有者の承諾が必要とされるため、自由度が制約される側面もあります。さらに、権利を公に主張するためには、速やかな登記申請が必要となり、手続の煩雑さを考慮すると、専門家のサポートが欠かせません。
また、配偶者居住権の財産的価値をどのように評価するかについても、相続人間で意見が分かれることがあり、話合いを円滑に進めるためには法律専門家の関与が推奨されます。評価に当たっては、日本不動産鑑定士協会連合会の方式や、相続税評価方式などが参考になりますが、現場ごとに適切な方法を選択する判断が求められます。
桐生市・みどり市といった地域では、相続人の一部が都市部に移住しているケースも多く、遺産分割協議を進めるうえでは地元に根ざした弁護士によるきめ細かな調整が非常に重要です。当事務所では、配偶者居住権の設定支援はもちろん、配偶者短期居住権の活用も視野に入れながら、ご家族の想いに沿った相続手続きを全力でサポートしています。
結びにかえて
配偶者居住権および配偶者短期居住権の制度導入は、単なる法律改正にとどまらず、地域に暮らす高齢世代の方々に「安心して最後まで住み慣れた家で暮らす」という希望を与えるものです。とりわけ、地元の絆を大切にしながら生きてこられた桐生市・みどり市周辺の方々にとって、この制度は心強い支えとなるに違いありません。
当事務所では、今後も制度の趣旨を踏まえた適切なアドバイスと、地域に寄り添う実務支援を続けてまいります。相続や老後の住まいに関するお悩みがございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
〔弁護士 馬場大祐〕