【相続・遺言】遺産分割協議における使途不明金問題の対応策
- わたらせ法律事務所

- 10月6日
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――相続人同士の信頼関係が揺らいだとき、どう対応すべきか――
身近に起こりうる「使途不明金」の問題とは
遺産相続をめぐる問題は、親族間での感情のもつれと密接に関係することが多く、特に「使途不明金」の存在が発覚したときには、話し合いが一気に険悪なものとなりがちです。これは、被相続人の預貯金などが生前に引き出されていたが、その使途が不明であり、相続人の一人が不正に使ったのではないかと疑念が生じるような場面を指します。
当事務所でも、親御さんと同居していた兄弟が口座管理をしていたところ、「他の相続人に無断で多額の出金があった」として紛争に発展する事例について相談を受けることがあります。こうした問題は、相続手続において「遺産分割協議が進まない」「信頼関係が崩れた」といった状況を引き起こす原因になります。
では、この「使途不明金」の問題に直面したとき、法的にはどのように対応していけば良いのでしょうか。
法的観点から見る使途不明金の位置づけ
まず、「使途不明金」があった場合に、そのお金がどのように扱われるかは、法的には大きく二つの可能性があります。一つは「特別受益」、もう一つは「不当利得・不法行為等に基づく返還請求」の対象となる場合です。
特別受益とは、相続人の一人が生前贈与や遺贈などで他の相続人に比べて過大な利益を受けていた場合に、それを遺産の前渡しとして扱う制度です。一方、被相続人の財産を相続人の一人が勝手に流用したような場合には、贈与ではなく「不法行為」にあたるとして、返還を請求することも考えられます。
もっとも、これらを主張するためには、「誰が」「いくら」「いつ」「どのように」出金したのか、その金銭の使途が正当かどうかといった事実関係の立証が必要となります。この点が、実務上の最も大きな壁となります。なぜなら、預金口座の明細や取引履歴だけでは、お金の使い道までは明らかにならないことが多く、特に介護費用や生活費として用いられた場合には、境界が曖昧になりがちだからです。
話し合いによる解決と調停・訴訟の選択肢
現実的には、遺産分割協議の場面で使途不明金の問題が持ち上がると、その相手を責めるだけでは話し合いが進まず、かえって感情的な対立が深まってしまいます。そこで、弁護士など第三者を交えた冷静な対話の場を設けることが、円満解決の第一歩となります。
それでも話し合いが整わない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。調停では、中立の立場にある調停委員が間に入り、各相続人の言い分を調整しながら、合意に向けた道筋を探ります。ここでも「使途不明金」の具体的な内容や証拠が求められますが、調停委員が客観的に状況を整理してくれることにより、相続人同士の直接対立を緩和する効果が期待されます。
また、使途不明金の返還を求める訴訟を別途起こすことも可能です。ただし、裁判になると証拠に基づいた主張が不可欠となり、時間や費用の負担も増します。したがって、証拠がある程度そろっていて、かつ解決の見通しがある場合に選択することが現実的です。
使途不明金をめぐるトラブルを防ぐために
こうした問題に直面しないためには、被相続人が元気なうちから「家族信託」や「任意後見契約」などを利用し、金銭管理の在り方を明確にしておくことも有効です。また、相続人の立場としては、介護や支援を担っていた兄弟姉妹に対して、不信感を募らせる前に、まずは「どういう事情で引き出したのか」「何に使ったのか」といった事実確認を丁寧に行う姿勢が大切です。
使途不明金があるからといって直ちに相手の不正や悪意を断じるのではなく、事情を共有し合い、合理的な説明を求めることによって、無用な対立を回避できるケースも少なくありません。桐生市やみどり市といった地域社会においては、家族同士の結びつきが強い分、相続をめぐる争いも感情的になりやすい側面がありますが、それだけに、冷静な対処こそが円満な解決への鍵となります。
当事務所でも、遺産分割協議を進める中で使途不明金が問題となっているご相談を多数お受けしております。桐生・太田・みどり市など、東毛地域にお住まいの皆様にとって、納得のいく相続が実現できるよう、法律の観点から丁寧にサポートいたします。疑問や不安がある方は、お一人で抱え込まず、お早めにご相談ください。
〔弁護士 馬場大祐〕