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【相続・遺言】遺留分侵害額請求の制度と実務上の問題点

―大切な相続に向き合うために知っておきたい基本と注意点―



「遺留分」とは何か ― 法律が守る最低限の相続権


相続という言葉を聞くと、「誰にどれくらい遺産を残すか」は被相続人(亡くなった方)の自由だと考えがちですが、実はその自由には一定の制約があります。その代表が「遺留分(いりゅうぶん)」と呼ばれる制度です。


遺留分とは、法定相続人のうち、兄弟姉妹以外の者(たとえば配偶者や子、親など)に認められている「最低限の相続分」のことを指します。被相続人が生前に特定の相続人や第三者に多額の贈与をしていたり、遺言で全財産を特定の人に遺すと定めたとしても、遺留分を侵害される立場の人には「遺留分侵害額請求」という法的手段が残されています。


たとえば、「すべての財産を長男に相続させる」と書かれた遺言があったとしても、他の子や配偶者には本来の取り分の一部が守られるのです。この制度は、特定の相続人が不当に排除されることを防ぎ、相続における公平性と家族の安定を保つために設けられています。



桐生市、みどり市周辺地域における実務の現場から見える課題


桐生市、みどり市、太田市など東毛地域でも、相続トラブルは決して珍しいものではありません。特に、遺言書の有無や生前贈与がからむ事案では、遺留分を巡る争いが生じやすく、法律相談の場でも頻繁に取り上げられるテーマの一つです。


実務上、時に悩ましいのは、「そもそも遺留分を侵害されているかどうか」の判断そのものです。遺留分の金額は、単純に法定相続分を半分にすればよい、というほど簡単ではありません。被相続人が生前に贈与していた財産も含めて、遺産の全体像を評価し直す必要があるからです。


たとえば、「長男が10年前に住宅取得資金として3000万円をもらっていた」「末娘が介護のために同居していたことで生活費の援助を受けていた」など、生前贈与の評価や立証が難しいケースでは、感情的な対立が激しくなる傾向があります。これは東毛地区のように家業や土地を代々継ぐ文化が残っている地域では、特に顕著です。


また、請求の対象となるのは財産そのものではなく、金銭の支払い(=遺留分侵害額請求)であることも、誤解が生まれやすい点です。「父の家を取り戻したい」という思いから相談に来られる方も多いのですが、実際には相続された不動産を共有に戻すことはできず、その代わりに金銭で補償を受けるという形が基本になります。



請求のタイミングと交渉のポイント


遺留分侵害額請求には、法定の期限があります。相続の開始および遺留分を侵害されたことを知ってから1年、または相続開始から10年が経過すると、請求権が消滅してしまいます。この「知った時から1年」という期限は非常に短く、放っておいてしまえば手遅れになることも珍しくありません。


また、遺留分を請求するかどうかは、感情だけではなく、経済的合理性を踏まえて判断することも重要です。請求先が相続した不動産しか持っていない場合、その不動産を売却して支払うよう求めることは現実的に難しく、かえって家族関係が決定的に悪化する恐れもあります。


こうした場合には、法的手段だけに頼らず、交渉による円満解決を視野に入れた対応が望まれます。私たち弁護士が関与することで、法的な権利関係を整理し、必要に応じて家庭裁判所での調停も活用しながら、冷静かつ実効性のある解決へ導くことが可能です。



地域に根ざした相続対策の重要性


桐生市、みどり市周辺地域では、長年住み続けた土地や建物への思い入れが強く、またご親族間の結びつきも深いため、相続トラブルが表面化しにくい傾向にあります。しかし、いざ問題が生じると、長年蓄積された感情が噴き出しやすく、法律問題だけでなく心理的な要素が大きく影響してきます。


遺留分侵害額請求は、被相続人の意思と相続人の権利が正面からぶつかる制度です。それだけに、慎重な判断と柔軟な対応が求められます。遺言を残す側も、請求を検討する側も、まずは信頼できる専門家に相談し、自分の立場や選択肢を冷静に整理することが第一歩となります。


当事務所では、桐生・みどり市・太田・館林など東毛地域にお住まいの方々に向けて、相続や遺留分に関する初回相談を随時受け付けております。大切なご家族のことだからこそ、早めのご相談を通じて、納得のいく解決に向けた一歩を踏み出していただければ幸いです。


〔弁護士 馬場大祐〕

 
 

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