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【離婚・男女問題】親の責務から親権へ──親権の性質を理解する ― 連載第2回


前回のおさらいと今回の趣旨


前回の第1回では、2024年改正の民法で新設された「親の責務」について解説しました。

親は親権の有無や婚姻関係に関係なく、子どもの人格を尊重し、年齢や発達に応じて養育する義務を負うこと、子どもが親と同程度の生活水準を保てるよう扶養する義務を負うこと、そして父母同士が互いに人格を尊重し協力する義務を負うことを確認しました。

この回からは、こうした責務を土台に、離婚後にどのように親権者を決めるのか、親権とはそもそもどのような性質を持つのかという「親権の性質論」へと話題を進めます。

フレンドリー・ペアレント・ルールも度々取り上げられますが、これはあくまで多くの考慮要素の一つであり、今回のテーマは親の責務と親権の関係を俯瞰することです。

 


親同士の人格尊重・協力義務を再確認


親権を巡る争いの場面でも、父母が互いに人格を尊重し協力する姿勢は重要です。

法務省パンフレットなどでは、この「人格尊重・協力義務」に反する行為の例として、暴力や脅迫、暴言や誹謗中傷、他方の親の監護に不当に干渉すること、特段の理由なく子どもを無断で転居させること、面会交流や養育費の協議を理由なく拒否することなどが挙げられています。

これらの行為が見られると、親権者の指定や変更で不利に評価される可能性があります。

ただし、DVや児童虐待から逃れるためにやむなく子どもを連れて転居するようなケースでは、義務違反とは評価されないことがQ&Aで明記されています。

親権を語る前提として、子どもの利益のために父母が協力する姿勢が求められていることを改めて強調しておかなければなりません。

 


親権者を決める際の考慮要素とフレンドリー・ペアレント・ルールの位置づけ


離婚に際してどちらが親権者(監護者)になるかは、民法に具体的な基準が明記されておらず、裁判所は「子の利益(福祉)に適うか」を総合的に判断します。

裁判例の分析からは、以下のような考慮要素が重要だとされています。

  • 主たる監護者:出生以来、主に子どもの世話をしてきた親かどうかが重視されます。

  • 監護環境の継続性:現在の生活環境に大きな問題がなければ、子どもの生活をできるだけ変えないことが重視されます。

  • 子どもの意思:子どもの年齢が高いほど重視されますが、一般に10歳未満ではあまり大きな要素にはなりません。

  • きょうだい不分離:兄弟姉妹をできるだけ一緒に育てるべきだという考え方もあります。

  • 監護開始の適法性:別居の開始や子連れ別居が違法な連れ去りかどうかは考慮要素の一つですが、連れ去りの有無だけで結論が決まるわけではなく、その後の監護状況や正当な理由の有無などを総合的に見る必要があります。

  • 面会交流への協力度(フレンドリー・ペアレント・ルール):別居親との交流に協力的かどうかは一つの要素に過ぎません。

  • 婚姻関係破綻の有責性:DVや虐待、不貞などが子の養育に悪影響を与えている場合に考慮されます。



フレンドリー・ペアレント・ルールはあくまで一要素


最近注目されているフレンドリー・ペアレント・ルールは、親権者を決める際に別居親との面会交流に積極的な親を評価する考え方です。

しかし、これは他の要素と同様に総合考慮の一つに過ぎません。

実際、千葉家庭裁判所松戸支部が父親による年間100日面会交流の提案を重視して父親を親権者とした判決(いわゆる「松戸100日面会裁判」)に対し、東京高裁は面会交流は考慮要素の一つに過ぎず、養育の実情や子の現状・意思を総合考慮すべきであるとして母親を親権者とする逆転判決を下しました。

フレンドリー・ペアレント・ルールは親権判断の補助的な要素であり、親の責務やこれまでの養育状況など他の事情と並び立つものです。

 


子連れ別居・実子誘拐が親権に与える影響 – ケーススタディ


離婚前後に「子連れ別居」や「実子誘拐」という言葉が話題になることがあります。

一般に、別居後に他方の親の同意なく子どもを連れ去る行為(連れ戻しを含む)は許されません。

一方、同居を解消して別居を始める際に子どもを連れて出る「子連れ別居」は許容される場合がありますが、以下の点が悪質と評価されると、違法とされる可能性があります。

  • 誰が主たる監護者か:同居中にどちらの親が主に子育てをしていたかが最も重要な要素であり、ほとんど関与していなかった親が突然子どもを連れ出すと違法と評価されやすくなります。

  • 連れ出しの方法:他方の親や子どもに不意を突くような形で保育園から連れ出す、抱えて車に乗せるなど強引な方法は厳しく評価されます。

  • 連れ去りに至った経緯や理由:DVや暴力からの避難など正当な理由があるか、別居や転居の話題が事前に出ていたか、子どもの生活環境を急激に変える配慮を欠いていないか等も考慮されます。

  • 連れ去り後の経緯:転居先を隠して連絡を遮断するなど、他方の親との交流を一方的に奪っていないかも重要な判断材料です。

このような事情を総合して、家庭裁判所は子どもの監護者や親権者を判断します。

違法な連れ去りがあった場合、その親は親権者指定で不利に扱われますが、同時に「主たる監護者」「監護の継続性」など他の要素と比較し、子どもの現在の安定した生活や福祉が最も重視されます。

刑事責任の有無がそのまま親権判断に結びつくわけではなく、子の利益を最優先して家庭裁判所が総合判断する点に留意が必要です。


 

親権の性質 – 権利ではなく子の利益のための義務


改正民法では、親権の性質についても明確にしました。

親権者には「子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う」と定められていますが、2011年改正でこの条文に「子の利益のために」という語が加えられました。

つまり、親権は親の権利であると同時に子どもの利益のために行使される義務なのです。

さらに、2022年の改正では旧822条(懲戒権)が削除され、新たに第821条が設けられました。

これにより、親権を行使する者は監護・教育に際して子どもの人格を尊重し、年齢や発達に配慮し、体罰その他子の心身に有害な言動をしてはならないと明記されました。

従来は懲戒権を盾に体罰を正当化する声もありましたが、改正法はそれを否定し、子どもへの暴力を禁止する方向へ大きく舵を切っています。

また、2024年改正では第818条1項が改められ、「親権は、成年に達しない子については、その子の利益のために行使しなければならない」とされました。

この規定は、親権が親の所有物ではなく、子どもの利益を守るための制度であることを改めて示しています。

 


まとめと次回予告


親の責務をふまえたうえで親権の性質を見てきました。親権者を決める際には、主たる監護者や生活環境の継続性、子どもの意思、きょうだい関係、連れ去りの違法性、面会交流への協力度など、さまざまな要素が総合的に考慮されます。

フレンドリー・ペアレント・ルールはその中の一つに過ぎず、面会交流への協力だけで親権者が決まるわけではありません。

違法な連れ去りは不利に評価されますが、DVや虐待からの避難など正当な理由があれば考慮され、最終的には子どもの利益が最優先されます。

民法は親権を「子の利益のために行使する義務」と位置づけ、子どもの人格を尊重し体罰を禁止する方向へ大きく変わりました。

父母同士の人格尊重・協力義務も改めて強調され、子どもの健全な成長のために親が協働する姿勢が求められています。

次回の第3回では、改正民法が導入した「共同親権」の仕組みや、日常の養育に関する単独行為と重要事項の共同決定について、一般の方にも分かりやすく解説します。

引き続きご覧ください。



〔弁護士 馬場大祐〕


 
 

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