ワイン紀行 連載第二回
- わたらせ法律事務所

- 17 時間前
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「知識へと向かった一歩――ブルゴーニュ篇」
1987年の衝撃的な一杯との出会い以降、私はすっかりワインの虜となり、蒐集と試飲を重ねる日々を送るようになりました。しかし、振り返ってみると、当初の二、三年ほどは、体系的な知識を持たぬまま、ただ買っては飲むという繰り返しに過ぎなかったように思います。その結果、体感的には購入したワインの七割ほどが、期待に反するものでした。
この経験から、私はワインにも「研究」が必要であることを痛感し、以後、さまざまな専門書に目を通すようになりました。余談ながら、これらの書物は、少なくとも私にとっては、法律の専門書よりもはるかに興味深いものでした。そうした読書を通じて、ワインについて次のような点が明らかになってきました。
一つ目は、ヴィンテージ、すなわちぶどうの生産年によって、ワインの出来が大きく左右されるということです。
二つ目は、各ワインにはそれぞれ適切な「飲み頃」の時期が存在するということです。
三つ目は、ワインは瓶詰めされてから市場に出回るまでに、およそ三年前後を要するという点です。そのため、市場に出た直後に購入することが重要になります。流通初期の段階では比較的手頃な価格で入手できるものの、十年、二十年、三十年と時を経るうちに、価格が五十倍にまで跳ね上がることもあります。
四つ目は、ワインを長期保存するためには、温度と湿度の管理が不可欠であるということです。理想的には摂氏十二・八度、湿度七〇パーセント程度が良いとされており、可能であれば専用の保冷庫での保存が望ましいとされています。
そして五つ目として、フランスの二大生産地であるボルドーとブルゴーニュでは、ワインの購入にあたっての選択基準が、まったく異なるという点が挙げられます。
今回は、そのうちブルゴーニュの赤ワインについてお話ししたいと思います。ブルゴーニュの赤ワインは、ピノ・ノワールという単一品種の黒ぶどうから造られます。この地域では、同一の畑が細分化され、複数の生産者によって所有されていることが一般的です。たとえば、ル・シャンベルタンという畑も、数多くの生産者がそれぞれ小さな区画を所有しています。そのため、ブルゴーニュワインを選ぶ際には、ヴィンテージや畑の名称だけでなく、生産者の名前まで慎重に吟味する必要があります。
1990年頃のことになりますが、東京・銀座に「ミツミ」というブルゴーニュワインの専門店がありました(現在は他店に吸収され、残っていません)。私が初めてこの店を訪れた際、店主に対して、ブルゴーニュ白ワインの最高峰とされるル・モンラッシェを購入したい旨を伝えました。
ところが、店主は、若い客がル・モンラッシェを求めることを快く思わなかったのか、私に向かって「ル・モンラッシェなんてないですよ」と、険しい表情で諌めたのです。一瞬、かっとなりましたが、私は店主に在庫のワインを見せてほしいと頼み、保冷庫へ入りました。
そこには、評価の高い生産者のワインが数多く並んでおり、その中の一本、ポマール・リュジアンに目が留まりました。私は、このワインをどのように入手したのかを店主に尋ねました。すると店主は表情を和らげ、フランスへ買い付けに赴いた際の様子を、実に楽しそうに語ってくれました。
二時間ほどワイン談義を交わした後、私は二、三本のワインを購入して店を後にしました。その際、店主は「先ほどは失礼しました。よくワインの勉強をされていて、ワインに対して熱心であることが分かりました」と声をかけてくれました。
この出来事をきっかけに、私と店主は親しくなり、以後、私が店を訪れるたびに、とっておきのワインを用意してくれるようになりました。いつしか私は、彼のことを親しみを込めて「ミツミのオヤジ」と呼ぶようになっていました。商売としての効率や損得よりも、ワインそのものへの情熱を何より大切にする人物でした。振り返ってみれば、同じように実直で、少し不器用とも言えるほどワインに向き合う人々に、他のワイン専門店でも何人か出会っています。そうした出会いもまた、私のワイン遍歴を形づくった、大切な記憶の一部となっています。
次回は、こうした経験を踏まえつつ、ブルゴーニュとは異なる成り立ちと評価軸を持つボルドーワインについてお話ししたいと思います。
〔弁護士 池末登志博〕